105号室の肖像画

15/17
前へ
/17ページ
次へ
 それから何日も経ちましたが、青年は戻ってきませんでした。母親が、ご迷惑をおかけしました、と言って息子の代わりに105号室の退去手続きをして、田舎へ帰っていった。帰りしなに一言、おずおずと母親が言った。あの絵は、あのままにしていただくことは、できませんでしょうか、と。大家はピンときた。きっと母親もあの声を聴いたのに違いない。外すな、っていう青年の声。大家が口ごもりながらも、何とかうなずいて見せると、母親は少しほっとしたような表情をしたそうだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加