第1章

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自宅の一室をオリジナルドラッグの調剤室にしていたフーヤは、患者一人一人に丁寧な対応と診察をじっくりと時間をかけておこなった後、調剤室で自ら、その患者のその時の症状、要望、年齢や性別、体質などを計算しながら慎重に薬剤を独自にブレンドして処方する闇医者だった。  空のカプセルに詰めたカプセル状、紙巻タバコを作る過程で薬剤を混ぜていくタバコ状、鼻からスニッフできる一見花粉症の治療薬に見える噴霧式容器タイプ、それ以外にも作用が長持ちするパッチタイプの張り薬、座薬タイプなどを寸分の狂いもなくそれぞれの患者に合わせて完璧に作ることが出来る万能精神科医だったフーヤは、国家資格である医師免許もとっくの昔に取得していた。 闇医者とは言えいわゆるモグリでは無かった。 フーヤの医師としての臨床経験は、豊富で多岐に渡っていた。 精神科以外の医学、薬学に精通し、経験や知識は、西洋医学だけに留まらず東洋医学や世界各国の原住民などが宗教的な儀式に用いる植物から抽出される薬学まで深く知り尽くしていたフーヤは、自らの精神疾患や薬物中毒の経験を併せて診察から薬の調合、処方までを日々淡々とこなしていた。 フーヤは、いわゆる危険ドラッグと呼ばれるに等しい調剤もしていた為医師免許を持ちながらも外からは、ただの一戸建て住宅にしか見えない場所で看板も出さずにインターネットのホームページすら無い状況で密やかに営業していた。 患者は、インターネット上の闇サイトや裏情報を知った患者同士の口コミで静かに、確実に拡散していった。 基本的に、フーヤ自身が現役の医師時代から癒着のあった独自のルートで仕入れた薬剤をブレンドして様々な形で処方していた為保険の適用は不可能だった。 自費診療とは言え闇医者のオリジナルブレンドドラッグを目当てに患者の数は予想以上に増えていった。 なるべくならリスクを回避して闇サイトなどのネット上で取引するのがこの手の商売の定石だが、フーヤは何故か患者とのカウンセリングを兼ねた診察にしっかりと時間をかける治療方針だった為、自宅兼クリニックのこの場所でしか薬の処方はしなかった。 また、中には快楽だけを求めるジャンキーの様な客もいたがそのような客は患者としては認めず、処方したふりをしてカプセルの中などに片栗粉などを入れて適当にあしらっていた。
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