第1章

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フーヤが診察対象としていたのは、あくまでも精神科の領域で治療が必要な精神疾患患者であり快楽欲しさのジャンキーはその対象外だった。 フーヤの診療所は千葉市美浜区の高洲に在った。 静かな住宅街で近所の誰もがフーヤの正体など知る由もなく穏やかな性格と仲の良い妻の存在も手伝って何の問題もなく地域に解け込んでいた。 フーヤの妻は、元々風俗の仕事をしていたが日々の暮らしの中で次第にストレスや幼い頃に受けていた虐待のトラウマが精神疾患、特に不眠症として強く現れてしまい当時フーヤが勤務していた心療内科にて二人は初めて出会い、やがて患者と医師の関係を超えて付き合うようになる。 妻の名前は、チカ。 やがて二人は結婚しチカは風俗の仕事を辞めて心理カウンセラーになるための勉強を始める。 フーヤの心療内科での仕事の報酬は決して悪くなく二人には、人並みの幸せは約束されていたかのように思えた。 結婚した事でチカは精神的な安定と念願の心理カウンセラーになるための資格を取得する。 一つだけチカが克服に苦労していたのは不眠症だけだった。フーヤは、チカがカウンセラーの資格を取ったこともあり二人で独立して神経科、心療内科のクリニックを立ち上げる事を考えるようになる。 そんな順風満帆な人生を歩み始めた二人を周囲の親族や友人は応援してくれてフーヤもチカの不眠症は、カウンセラーの仕事を通して良い方向へ向かっていくだろうと期待していた。 チカは大の子供好きでそれは自らが幼い頃に両親に虐待されていた過去を振り払う為の自己防衛本能のようなものだとフーヤは思っていた。 チカは、最低でも二人の子供を出産して一人目は女の子で、二人目は男の子、名前は愛子と裕二に決めていた。 フーヤとチカの二人三脚でクリニックは海浜幕張のオフィスビルの13階の大きなフロアに開設される事に決まった。インターネット上にホームページも作り、クリニックの名前はスローライフメンタルクリニックに決まった。 受付の医療事務員やサポートスタッフも決まり、クリニックのテーマは名前の通り焦らず、ゆっくりと薬物療法とカウンセリングを組み合わせながら患者の人生を共に考えていきましょう。というものだった。 フーヤは、幼い頃から勉強が良く出来た。 両親はフーヤが将来医者か弁護士になるものだと大きな期待を寄せていた。
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