第1章

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「今晩から二人であの薬飲んでぇ~、その後ちょ~気持ちいいセックスしよっ!」 「性的悦びが強いほど元気で健康な赤ちゃんが産まれるんだって!」 フーヤは、仕方なく静かに微笑みながら頷いた。 その日から、二人は毎晩欠かさず行為に励んだ。 勿論、お互いあの薬を使って。フーヤが作ったそのカプセル剤はフーヤ自身にも強烈な陶酔感と多幸感をもたらした。その状態で行うセックスは更に強烈な恐怖にも似た快感を二人の肉体と脳に迸らせ、その禁断の行為が終わる頃、二人は、速やかに深い心地良い眠りに落ちていった。 フーヤが開院した闇のメンタルクリニックは、口コミで徐々に患者が増えていた。 訪れる患者もここのルールを良く理解してくれていた。 薬代は、保険が効かないので全額自己負担になってしまったが、とにかく様々な精神疾患や神経系統の悩みや苦しみから嘘のように解放されるフーヤのブレンドした薬は、ここに訪れる患者にとってはチカのそれ同様、「魔法の薬」として愛用された。 覚醒作用の強いもの、酩酊感や陶酔感の強いもの、多幸感を齎すもの。全て、フーヤの今までの医師としてのキャリアや人柄を通しての「コネ」も含めて入手した合法麻薬や合法覚醒剤、ありとあらゆる医療薬をその患者に合わせてブレンドしたものだった。 フーヤには、医学生時代から師と仰ぐ一人の外科医がいた。赤井というその外科医は風貌こそ怪しげな雰囲気を存分に醸し出していたが外科医としての才能は天才的で、多くの名医と呼ばれる医師が不可能と判断した患者の駆け込み寺として知られるようになっていた。 フーヤは、医学生時代に医薬品の研究実験中に誤って硫酸を自分の顔面に浴びてしまう。この事は、大学側が口止め料として多額の金をフーヤに渡し、また今後の医学生としてのフーヤの道を場合によっては閉ざしてしまう脅しの様な警告と共に一部の関係者以外は知る事の無い事故となっていた。 フーヤの顔面はケロイド状に爛れてしまい見るも悍ましい姿に変貌してしまった。 大学に通うどころではなくなったフーヤは、しばらくの間自宅に引きこもるようになる。 うつ病の症状が出始めたのはこの頃からで将来を有望視されていたフーヤの医師への道は完全に閉ざされた様にも思われた。
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