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一切外出が出来なくなったフーヤの唯一の外界との接点はインターネットだった。最初は、単なるネットサーフィンに興じていたフーヤに救いの手を差し伸べたのはネット上で知り合った本名も顔も知らないカトウという人間だった。
カトウは、フーヤにある「情報」を持ち掛ける。最初こそカトウの提案を拒んでいたフーヤだったが次第にその「情報」を提供されるうちに藁にも縋る思いで話に乗ることになる。
フーヤは、カトウの指示通り東京都の八王子に有るという闇の外科医院を訪ねる。
そこは、閑静な住宅街で病院らしき建物は、皆無だった。
メモ用紙になぞったカトウから教えてもらった住所のみを頼りにフーヤは一軒の民家に辿り着く。
帽子を目深に被り、サングラスとマスクで隠せる限り自らの顔を覆っていたフーヤはネームプレートも無いその民家のインターホンを覚悟を決めて押してみた。
一回目は全く返答も無かった。
フーヤは、それで逆に少し安心する。
カトウの指示はまずインターホンを一回だけ鳴らす。返答が無ければ次にインターホンを二回続けて鳴らし更に四回続けて鳴らすようにとの指示がフーヤのメモ用紙にも明記されていた。
全てカトウの指示通りにインターホンを鳴らし終えたフーヤは静かに「その時」を待った。
「裏口が開いているから、どうぞ」
インターホン越しにそう呟いた声が聞こえた。フーヤは、家の裏口に廻り裏口のドアのインターホンを二度鳴らしてから、最後にこう言った。
「み、水を一杯いただけますか?」
それも、カトウの指示通りだった。
合言葉の様なものだったのか?暫くすると裏口のドアが開けられ、一人の奇抜な髪形とファッションに包まれた初老の男性が現れた。
「ようこそ、お入りください」
季節は、真夏でフーヤは汗だくだった。
家の中に入るとそこはまるで個人クリニックのような空間だった。フーヤのよく知っている薬品や医療器具が揃っていて奥の部屋には手術台のようなものが有った。
「闇医者の外科医の赤井と言います。どうぞ」
汗だくのフーヤにコップに注がれた冷たい麦茶が渡された。
「あ~!うまい!」
麦茶を一気に飲み干したフーヤは、無意識にそう叫んでいた。赤井はその様子を微笑みながら見つめていた。
「かなり、酷いね」
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