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「それで、例の治験の事だけど……」
「はい、対象者は、もう決まっていますし、全てが順調に進んでいます。心配いりません!」
国内最大手の製薬会社である「日本リーベル」の新薬開発部では、治験の段階まできていた新薬の「ホライゾン」に、会社の命運が、かかっていた事もあり、開発に携わった大澤(おおさわ)と金城(きんじょう)は、早くこの新薬が世に出て、多くの患者を救う実績を上げさえすれば、自分たちの母体企業である「リーベル・グループ」から、独立して、今後、自由に新薬の開発に勤(いそし)しめると考えていた。
「だから、何で俺の家のポストの中に、製薬会社の治験の説明のパンフレットが、入ってたんだよ!個人情報ダダ漏れじゃねえか!!」
都内に住んでいた、三木(みき)博也(ひろや)は、黙りこくっていた両親に、かなり荒れた様子で、食って掛かっていた。
「博也……うちは、非課税世帯なのを、知っているだろう?」
父の三木(みき)達郎(たつろう)は、お茶をすすりながら、ワザと博也から、目を逸らせていた。
「博也、お願いだから、この治験を受けてくれないかな……?」
母親の、三木(みき)静江(しずえ)は、入れ歯を外して、入れ歯洗浄剤の入ったコップの中に自らの入れ歯を、無造作に沈めていた。
「金か!?収入が、足りないんだろ!俺が、働いていないから!!」
博也は、自らの不甲斐なさを嘆いたが、実際に社会で働いた経験は、殆どと言っていいほど無く、働いても、どこも長続きしなかった。
「この新薬の治験は、計二十四回。報酬は、一回につき、約二万円だ。単純計算で、合計四十八万円。ただ、薬を飲むだけでだぞ!こんなおいしい話は、中々ないぞ!」
「大体、何の薬だよ?」
ここで、ようやく博也が、一番大事な事を問いかけてきた。
「それは……」
達郎は、少しだけ間をあけてから、意を決したかのように話し出した。
「博也、お前のような、人格に障害のある……つまりパーソナリティ障害の患者の為に、開発された新薬だそうだ……」
博也は、達郎から受けた説明を黙って聞いていた。
「わかったよ……やるよ!」
博也は、この新薬の治験に協力する事に何故か?あっさりと承諾した。
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