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先生は、薬品庫の在庫を確認しながら、こちらには目もくれずに言う。
「いるよー」
いるんだ。
そうか。
くたびれた白衣が似合う先生は、なんとなくそういうのとは無縁そうだなとか、失礼なことを思っていて悪かったな。
内心反省して、蛇口をキュキュッとしめた。
「私じゃ、だめですか」
窓辺にひとつ、ふたつと、洗いたてのビーカーを並べていく。
うん、綺麗に並べられた。
水滴が西陽を受けて、キラキラ光るの、綺麗だ。
「カノジョいるって言ってるデショ」
ああ。なんてつれない返事。
先生はやっぱり最高だ。
そうだよね。
カノジョのことは、大切にしないとだもんね。
だったら、それじゃあ、
「私と付き合ってもらえませんか」
「いやほんと話きいて」
やっとこっちを見てくれた。
黒縁眼鏡の向こう側は、困った表情というより、呆れ顔。
そんなカオも、するんだね、先生。
「私、先生のこと、好きです」
「それはドウモアリガトウ」
「なんでカタコト?」
照れたように頬を掻く先生、新鮮だ。
忘れないうちにノートに書かなくちゃ。
目下、私の科学部での研究の裏メインテーマは、先生観察なんだから。
「生徒に好かれるのは嫌いじゃないぞ。俺もお前たちみんなのこと、愛してるからな」
先生、そのセリフ、好きだね。
でも、私も、そう言ってくれるのを、また聴きたいって、何度でも聴きたいって、そう思っているよ。
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