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入学式
新しい制服。
新しい学校。
新しいクラスメイト。
何もかもが希望に満ち溢れて、キラキラしている気がした。
それらすべてが、私にとっては苦しかった。
こんなにも明るい世界を、綺麗だと思う。
でも、期待に応えないと、頑張らないと、ここにはきっといられなくなる。そう感じていた。ひどく息が詰まって、つらかった。
「この高校生活はたった一度きりだ」
そう。
だから、失敗しないようにしないといけない。
入学式のあの日、震える手を握り込んで、言葉の主を見上げた。
「だから、めいっぱい、楽しめ」
レンズの厚い黒縁眼鏡。
目にかかる黒い髪。
背は高いかもしれないけど、猫背。
その人は、どちらかというインドアそうな風貌に似合わず、にっかりと歯を見せて笑った。
目が、合った。
「やりたいことを全力でやれ」
そんなこと、言われたことがなかった。
やりたいか、やりたくないかなんて、考えたことがなかった。たぶん、一度も。
ただ、やらなくちゃ、がっかりさせないようにしなくちゃって、それだけだった。
「俺は、お前たちみーんなを愛してるからな!」
先生。
先生のあの日の『愛してる』は、『信じてる』ってきこえたよ。
私にも、やりたいことをやれるって、そう信じてるって、言ってくれたような気がして、私はすごく、嬉しくて、15年生きてきて、あの日やっと自分が生まれたような気持ちになれたんだよ。
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