紫水晶の花嫁

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「ああっ!」  長くしなやかな指で性器をいましめられ、ゼーテは小さな悲鳴を上げた。 「王よ、何を考えておられます?」 「な、何も」 「いや、よそごとを考えておられたようだが」  嘘を罰するように、カイは薄紅色に染まった怒張の先端を舐め上げた。  大きく開かされた足の間から、冷たく見えるほど隙のない美貌がゼーテを見ている。夜空に輝く銀の月と同じ色の髪を持つ青年。その青い瞳に射すくめられて、体が大きく震えた。 「はしたないお方だ。もうこんなに濡らしておられる」 「嫌だ、カイ。嫌――」  ゼーテの拒絶などおかまいなしに、カイは震える肉茎を形のいい唇に含んだ。豪奢な寝室に、不規則なリズムで濡れた音が刻まれていく。  カイに抱かれるのは、これで十回目――おそらく今宵が最後になるだろう。それを裏づけるように、ゼーテの白い肌に刻まれた不気味な青黒い鱗はだいぶ薄らいでいた。 ――カイよ、そなたは誰を娶るのだ?  自身を唇で執拗に犯されながら、ゼーテは愛しい家臣を見やった。  砂漠の中央に位置するイオネアは小国ではあるが、交易をなりわいとする豊かな国だ。ゼーテは十九歳の若さながら、聡明な王として平和に国を治めていた。そんな折、不思議な病が彼を襲ったのだ。  少女と見間違えられるほど可憐なゼーテの肌に青黒い鱗が生え始め、見る間にそれは全身に広がっていった。やがて彼は起き上がることもできなくなり、高熱にあえぎながら日に日に衰弱していった。 「さいはての地に住む古竜の呪いでございますれば。イオネアの繁栄を、あるいは陛下の幸福をうらやんだゆえかもしれませぬ」  宮殿に仕える老齢の術師は顔を曇らせた。 「これを癒すには若き男子の精をお体に注ぐしかございません。おそらく十夜ほど経れば、呪いは消えゆくものと存じます」  王を救うためには彼と通じなければならない――同性を抱くことに躊躇しながらも、国中の若者がゼーテを救おうと立ち上がった。みごと呪いを解いたあかつきには王族の姫を娶り、重臣として取り立てられれることが約束されたからである。  けれど実際のゼーテを前にして、彼に手を触れようとする者は一人もいなかった。かつて美貌をうたわれた若き王の姿は人とは思えないほど醜く、その青黒い鱗が伝染することを恐れたのだ。  ぜーてはなおも憔悴し、ついには全身から腐臭さえ漂い始めた。
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