第一章 新世界への船出

6/9
前へ
/185ページ
次へ
ERICA達のようなアンドロイドを統括する存在として,マザーAIというものがある.これが自我を獲得するためにどうすれば良いのかを指示しているのだが,マザーAIは先述の説を自我獲得のための計画のひとつとして採用しており,アンドロイド達はそれの実施を行なうようにされている.自我獲得のために行動することはアンドロイド達の至上命令であり,RINはそれを忠実に実施しているだけであるため,スメラギの操艦の効率など二の次なのである. もっと言ってしまえば,艦を動かすだけならそもそもアンドロイド同士で会話する必要もなければ,身体を持つ必要もない.彼女達がわざわざ人間のように艦を動かすのは,それ自体に自我獲得へ至る鍵があるとマザーAIが判断したからだ.本来であればAIを艦の管制システムにインストールしてしまえば良いだけの話であるが,手抜きで効率の悪い方法をしているわけではないのだ. ERICAは艦橋から見える景色を眺める.目的地の惑星ランソルはまだ光る点のようにしか見えないが,それを取り巻くデブリ帯は徐々にその姿を露にしていった.デブリ帯には大小様々な岩石が浮いている.スメラギは長旅に耐えられるよう頑丈に出来ているため,多少のデブリとの接触は問題がない.しかし時折小惑星サイズのものが混じっていることがある.それに接触するとスメラギでも損傷は免れないため,RINが手動で回避するということを行なうのだ. 「デブリ帯突入120秒前.スラスター逆噴射,減速を開始します」 RINの宣言に合わせて艦前方にあるスラスターが進行方向とは逆向きに噴射される.惑星間を航行するスメラギのスラスター出力は非常に高く,力加減を間違えれば一気に逆向きに進み始めてしまう.RINは操舵幹の横に備え付けられたレバーをジリジリと上げ、スラスターの出力を上げていく.彼女の的確な操作のお陰で艦はデブリを避けられる程度まで速度を落とした. 「減速完了」 RINがデブリを回避しやすい速度に艦の速度が落ちたことで,ランソルへの予想到達時間の目処が立つ.センサからランソルまでの距離を受け取り,算出された予想到達時間をERICAは報告する。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加