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室内は冷房が効いているとはいえ、まだ厳しい残暑が残る九月の夜。やや汗ばんでいるキョウコの肌からは妖艶な女の香りがふんだんに漂っていた。
「おかしな趣味ね。なんか匂いする?」
「ええ、とってもいい匂いがしますよ。女性の匂いってどうしてこんなにいい匂いがするんでしょうね。」
キョウコも不思議がって自分の腕や衣装の匂いを嗅いでみる。
「何にも匂いなんかしないわよ。」
「自分の匂いなんてわからないですよ。」
「うふふ、不思議な人。」
浩市はその匂いを感じるだけで十分だった。
やがてキョウコのヘルプの時間が終わり、ミキが戻ってくるアナウンスが流れる。
「たまに来てるからまた会いましょうね。」
そう言ってキョウコはまた薄暗い空間の中へ去っていった。なんだか少しのぼせた気分のままにミキを迎え入れることが、なんだか妙な感じだった。
「どうしたの?」
少しぼおっとしている浩市の様子は可笑しかったようだ。
「いや、さっき来たキョウコさんって言う人、不思議な感じの人ですね。」
「そうね、感じはいい人よ。だけど残念ながらあの人は指名できないわよ。ヘルプ専門だから。」
「聞きました。そんなシステムになってるんですね。」
「それよりも、ミキのことはどうなの?」
ミキは妖しげな香りがする唇を近づけながら、腕を浩市の首に回す。
いつまでも受身のままの浩市にじれたか、ミキは胸の膨らみを浩市の顔にあてがってセクシーなサービスにぬかりない。
突然の襲来に驚いたが、元来さほど初心でもない浩市もそのサービスは嫌いではない。両手で膨らみを受け止め、色っぽく弧を描くように弄ぶ。
「うふふ、だんだん乗ってきたかしら?」
「可愛い女性にこんなことされて、舞い上がらない方がおかしいですよ。」
ミキは浩市の膝にまたがったままの姿勢で、上目遣いのまま浩市の耳元で囁く。
「あなたお名前なんていうの?教えてくれない?下の名前だけでいいから。」
「浩市といいます。サンズイに告げると市場の市です。読み方だけなら平凡でしょ。」
「私の名前も平凡よ。」
確かに今どきの名前としては珍しく普通だ。但し彼女の場合は源氏名であることを忘れてはいけない。
「ホントの名前は聞かせてはもらえないんでしょ?」
「もちろんよ。」
ミキは少し意地悪な目をして浩市を見下ろす。
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