11人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
浩市も諦めたようにブロマイドを見つめ、均整の取れたボディを持ち、ある程度のふくよかさがある嬢を選んだ。それが浩市の人生を変えることになる第一歩であることとも知らずに。
ベンさんはスレンダーな女の子が好きなようだ。残っているブロマイドの中でも、かなりの痩身の嬢を選択していた。
一般的にキャバクラ嬢のことを簡潔に呼ぶ方法として用いられる「嬢」。ここでもこの呼び方を引用しよう。
三人は店内のツーショットと呼ばれているシートに案内される。ヒデちゃんの提案で、あまりお互いが近くないシートを三人に用意された。そして彼らはそれぞれが指名した嬢をそれぞれのシートで待つのである。
浩市が案内されたシートが一番手前の通路だった。シートとシートの間は高い敷居で区切られており、前後の様子はわからないようになっている。但し、通路を挟んで隣のシートは丸見えだ。
やがて年のころ二十ちょっと、女子大生っぽい嬢が浩市の前に現れる。
「こんばんわ。初めましてミキです。」
嬢は初めての客に挨拶する際は、片膝をついて名刺を渡しながら自己紹介を行うのがこの店の習わしのようだ。
「こんばんは。可愛い方ですね。よろしくお願いします。」
何をどうすればいいのか全く解らない浩市は生真面目な挨拶をするしかなかった。
「ふふふ。面白い人。こういう店は初めてなの?」
「恥ずかしながら初めてです。結構緊張しています。」
浩市が言い終わるまでもなく、ミキは浩市の膝の上にまたがってきた。
「うふふ。可愛い人。」
そういい終わると、静かに自らの唇を浩市の唇に重ねてきた。ほのかな女性らしい香りが浩市を包んでいく。
このところ妻ともすれ違いの多い生活の中、久しぶりな異性の香しい匂いにあっという間に翻弄されそうになる。
じっとしたままでいると、ミキは彼女の祠の入り口を少し開き、中から女神様が挨拶しに顔を出してきた。あたたかくネットリとした柔らかい女神様だ。
浩市も極端に初心な男ではない。抜群にモテた訳ではないが、中学を卒業以来、彼の傍らにはおおよそ彼女と呼ばれる女の子が常にいた。従って、こういうときにどう対応すればよいかは理解している。
浩市は挨拶に訪れるミキの女神を快く歓待したのである。
最初のコメントを投稿しよう!