#一重からはじまるプロローグ

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しばらく行き違いになっている妻との交渉も思い出した。もう数ヶ月も前のことである。ミキの匂いは妻の匂いとは違った匂いだった。それが尚更不倫の香りがして、浩市の胸中を騒がせる。 そして浩市にとって運命の場内コールが響くのである。 =ミキさん十五番テーブルハロータイム、キョウコさん五番テーブルスマイルタイム= 後で嬢に聞いたところによると、「ハロータイム」とは指名せずに入ってきた客への顔見せであること、「スマイルタイム」とは指名客の席を離れた嬢の代わりにヘルプとして入ることらしい。 そのヘルプにやってきたのが、本編のもう一人の主人公となる嬢なのである。 「初めまして、キョウコです。」 そう言ってニッコリ微笑んで浩市の隣に座った。 その瞬間、デジャビューのようなものを感じた。なぜか心臓がバクバクする。先程まで隣に座っていたミキとは明らかに異なるトキメキ感である。そんなドキドキ感を感じながら、名刺をもらおうと待ち構えていたのだが、 「あれ?名刺は無いんですか?」 「私はヘルプ専門なので、名刺を持たされていないんです。」 そんな人もいるのかと思った。 それにしても綺麗な人だ。浩市は素直にそう感じていた。年のころも三十路坂を越えるか超えないか。浩市と同じぐらいの世代であることは間違いないだろうと感じていた。そんなキョウコに見とれていると、 「あなた奥さんいるの?」 ふいにキョウコが問いかける。 「一応結婚しています。彼女もそれなりの仕事を持っていますので、ここ数ヶ月すれ違いの生活ですけどね。」 「うふふ、じゃあ、あっちのほうはどうしてるの?」 「そんな恥ずかしいこと聞かないでくださいよ。自分で処理してるに決まってるじゃないですか。それともキョウコさんがなんとかしてくれますか?」 「ダメよ。それはなんとも出来ないわ。でもかわいそうね。私が少しだけお手伝いしてあげる。」 そう言うとキョウコはおもむろに浩市の勢い良く弾んでいる膨らみへと手を添えた。 その瞬間、「ビクン」と波打つ浩市の体。その反応が面白かったらしく、キョウコは手を上下に動かして更なる攻撃を加える。 「キョウコさん、確かに気持ちいいですが、それは生殺しというものです。そのあたりで勘弁してもらえますか。それよりもあなたの匂いを確認させてください。ボク匂いフェチなんです。」
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