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昼休み、校舎の一角で、私は夏音にいきなり壁ドンされていた。
「えっと、あの…この状況の意味が分からないんですけど…」
私は夏音から目をそらしつつ、勇気を出してそう言った。
「覚えてねえのかよ。そんなもんかけてるから分からねえんだ」
そう言って夏音は私のメガネをはずして顔をさらに近づけてきた。
「人と話す時は目を見て話せ」
その時、私は思い出した。
『人と話す時は目を見て話しなさい。そんなだからいじめられるのよ』
雪が深く積もる中、幼いころの私がそう言って一人の少年をみやる。
『だって、いつどこから攻撃されるかわからないんだもの』
少年――夏音だとはっきり分かった――がそう言ってうなだれる。
その時、いじめっ子が、『もやしー』と言って夏音に雪玉をなげてくる。
『ほら!』
そう言って夏音は目を潤ませて、攻撃から身を守るようにしゃがみこむ。
私は、足下の雪をふん掴んで雪玉をつくり、いじめっ子たちになげつけて撃退した。
私にしてみれば、今の今まで忘れていたくらいの、ささいなできごとだった。
でも、夏音からしてみれば、忘れようもない特別な出来事だったのだ。
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