大江健三郎『芽むしり 仔撃ち』第五章より

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雑炊を作る 弟とともに 沈黙が包む そして食べる 食欲のないまま ひそやかに落ちこんだ村 冬の柔弱な陽射しの 横溢 崩れ落ちては崩れ落ちる 霜柱 坂を下る めいっぱいの寒気のなか 喉までも凍りそうだ 仲間が待っている 分教場の前の広場に うずくまって待っている のた打ち回りながら待っている 怠惰な空気 無感動 弛緩した広場が 毒蜘蛛のように 僕を襲ってくる
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