20.対話

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20.対話

 雨が降っている。霧と言っても良い。体にまとわりつく水滴。体温を冷ます雫。  彼らは帰らない人を待っている。いつまでも、いつまでも、いつまでも。  その理由すら、彼らは忘れていくのだろう。  真っ白な世界の中で、彼は守るべき世界にすら、忘れ去られてしまったのだ。  なだらかな丘の上で、人の輪郭をした黒い影は海を眺めている。紫苑色の花は咲き乱れ、海は穏やかに凪いでいた。 「誰を待っているんですか?」  シオンは背中に問いかけた。  影は常に形を変えていてどちらが正面か怪しい所だが、恐らくこちら側が背中だ。 「…………」  振り返った蒼い眼が開かれる。人の手を模った影は静かに指さした。  その指はまっすぐに、シオンの胸をさしている。
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