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04.災難
よりにもよって、話しの通じ無さそうな相手にぶつかっていた。
1人ならまだしも、いかにもならず者の風体をした男たちが数人。こちらを見下ろし、ニタニタと笑っている。
恐らく、スフェノスがいち早く気付いて、腕を引いてくれたのだろう。悪い事は続くものらしいが、もう少し病み上がりを労わってくれても良いのではなかろうか。
シオンが滅入っていると、目の前を細身の背中が遮った。
「こちらはすでに謝罪をした。ぶつかってきた君たちにこれ以上、述べる言葉はない」
「ぶつかって、きた……?」
シオンが反芻すると、大男の後ろにいた男の1人がスフェノスへと詰め寄った。
「おいおい。ぼーっと歩いてたのは嬢ちゃんの方だろう? 嬢ちゃんから誠意ある謝罪を受けるのが、スジってもんだ」
「君たち全員が正面から歩いてくる僕たちに気付けなかったと言うのなら、今からでも目医者に行くことを勧めるよ。先ほどの失言も聞かなかったことにしよう」
スフェノスはシオンの前を動かない。柔らかな返答に、げらげらと大笑いが起きた。
周囲の視線が集まってきている。シオンは小声で彼の腕を引いたが、スフェノスは人差し指を口元へ立て、ただ微笑みを返した。
彼の身なりを、小柄な男が上から下まで視線で舐める。
「そうだなぁ。兄さんの言う通り目が悪いのかもしんねぇ! だが医者行くにも金がねぇしなぁ! 困ったモンだ!」
「嬢ちゃんの代わりに、兄さんが詫びを入れてくれるってぇなら、そうだな……。その耳飾りなんかは、いい値が張るんじゃないか?」
ぶつかった男の腕が、スフェノスの顔へと伸ばされる。シオンは思わず足を踏み出していた。
「待って」と。口を開きかけたシオンの声はしかし、穏やかな声に遮られた。
「はっきり言ってあげないと、君たちには理解できないかい?」
伸びてきた男の手を、スフェノスは手の甲で軽く払った。
「僕の主人への非礼を、詫びろと言っている」
払ったと言うよりも、触れたが近い。それくらい、静かな動作だった。
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