06.待ちビト

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06.待ちビト

 雨は止まない。  丘の上から眺める灰色の海は常に白波を立てていた。  紫苑の花は一枚、また一枚と、その花弁を落とす。  丘の上には黒い影がいた。何となく人の姿を模っている気もするが、霞のように輪郭がおぼろげだ。  影は灰色の空を見上げている。冷たい雨がその足元へと花を散らす。  シオンはうぞうぞと蠢く影へと足を踏み出す。そして彼女に気づいたソレと、確かに目が合った。まるで宝石のような2つの蒼い光が、息を呑む彼女を捉える。シオンは思わず後ずさりした。  そんな彼女の世界を、ソレは一息に暗闇で覆った。
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