10人が本棚に入れています
本棚に追加
クローバー
※暗いので、ご注意を。
「いつも、ありがとう」
家の近くまで来て、私は街灯の下で足を止めた。
隣を歩いていた彼も自然と立ち止まる。
「帰り道に何かあったら困るし、このくらい当たり前だよ」
「そうでもないと思う。毎回ちゃんと送ってくれて嬉しいし」
「……俺、君のことは大事にしたいからさ。そうやって、ちゃんとお礼を言ってくれるし」
言葉を選びながら、彼は ぎこちなさを誤魔化すように軽く髪をかき上げた。
私もそれを見てから、自然と自分の髪の乱れを直した。
「それにしても、今日は楽しかったよねっ」
空気を変えようと、声を弾ませて、彼の瞳を覗き込んだ。
既に日は落ちて、こんな小道に入ってしまえば人通りも全くない。街灯が転々と頼りなく立っているだけだ。
彼は少し照れたように顔を背けて、それでも できる限りの優しい声を出した。
「ああ、そうだね。うん、君が楽しんでくれたなら良かった」
染めた髪はワックスでセットされて、耳にはピアスまでついている。それでも、彼は本気だというアピールなのか、馴れ馴れしく触れてこようとはしなかった。
付き合ってもう半年になるのに、彼は未だに慣れていない。
最初のコメントを投稿しよう!