10人が本棚に入れています
本棚に追加
仮面の下
笑顔の仮面。
全体が白くて、目は真っ黒、口はピエロのようにニッコリと吊り上がっている。
皆がそれを当たり前のようにつけているから、僕もそれをつけるようにした。親が作ってくれなかったから、自分でやった。
器用に、馴染むように。
街行く人達は誰もが“それ”をつけている。
男女問わず、子供ですらも。
けれど、そんな中で泣きじゃくる君を見つけた。
仮面を持っていても、上手くつけられていない。そもそも、君の仮面は黒くて、笑ってなんていなかった。
彼女が僕のように自分で作ったのは、誰が見ても明らかだ。
それを見て、僕は自分の仮面に触れてみた。
冷たく固く、石膏の感触は手に砂をつける。
本当は違和感があったんだと、初めて気がついた。
仮面の下にある自分の顔なんて、もうずっと前から見たことがない。
僕はそれを躊躇してから外して、大衆のど真ん中で泣きじゃくる君へ近づいた。
「僕も同じだよ」
初めて出た言葉は、自分でも意外なものだった。
泣き止んだ彼女は、驚いた顔で僕を見た。長い睫毛についた水滴は砕いた硝子のようにキラキラと光る。
人は整ったものを美しいと言うけれど、僕は仮面よりも彼女のそれが愛しいと思った。
赤くなった目元も頬に流れる涙も、初めて見た。
通行人はこちらを見もせず、器用に避けて通り過ぎていく。何百人もの人が居ても、足を止める人は居なかった。
皆が皆、同じに見える。男性も女性も、違いと言えば髪と服くらいだ。
そう言えばきっと、僕がおかしいのだと返されるのだろう。
そして皆、彼女をおかしいと責めて、仮面の下ですらも笑うのだろう。
「大丈夫。僕も、一緒だよ。君と同じなんだ」
君は何も答えなかった。その代わり、安心したように微笑んだ。
その笑顔は、仮面のものよりずっと不器用でぎこちない。
それでも僕には、彼女の笑顔の方が可愛く見えた。
*END*
最初のコメントを投稿しよう!