仮面の下

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仮面の下

 笑顔の仮面。  全体が白くて、目は真っ黒、口はピエロのようにニッコリと吊り上がっている。  皆がそれを当たり前のようにつけているから、僕もそれをつけるようにした。親が作ってくれなかったから、自分でやった。  器用に、馴染むように。  街行く人達は誰もが“それ”をつけている。  男女問わず、子供ですらも。  けれど、そんな中で泣きじゃくる君を見つけた。  仮面を持っていても、上手くつけられていない。そもそも、君の仮面は黒くて、笑ってなんていなかった。  彼女が僕のように自分で作ったのは、誰が見ても明らかだ。  それを見て、僕は自分の仮面に触れてみた。  冷たく固く、石膏の感触は手に砂をつける。  本当は違和感があったんだと、初めて気がついた。  仮面の下にある自分の顔なんて、もうずっと前から見たことがない。  僕はそれを躊躇してから外して、大衆のど真ん中で泣きじゃくる君へ近づいた。 「僕も同じだよ」  初めて出た言葉は、自分でも意外なものだった。  泣き止んだ彼女は、驚いた顔で僕を見た。長い睫毛についた水滴は砕いた硝子のようにキラキラと光る。  人は整ったものを美しいと言うけれど、僕は仮面よりも彼女のそれが愛しいと思った。  赤くなった目元も頬に流れる涙も、初めて見た。  通行人はこちらを見もせず、器用に避けて通り過ぎていく。何百人もの人が居ても、足を止める人は居なかった。  皆が皆、同じに見える。男性も女性も、違いと言えば髪と服くらいだ。  そう言えばきっと、僕がおかしいのだと返されるのだろう。  そして皆、彼女をおかしいと責めて、仮面の下ですらも笑うのだろう。 「大丈夫。僕も、一緒だよ。君と同じなんだ」  君は何も答えなかった。その代わり、安心したように微笑んだ。  その笑顔は、仮面のものよりずっと不器用でぎこちない。  それでも僕には、彼女の笑顔の方が可愛く見えた。 *END*
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