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さくら、ひとり、ひらり
桜のジャムを入れたアイスティーを手に、久しぶりに街へと出た。
のんびりした休日なんて、なんだか久しぶりに思えてしまう。
桜はすでに散り始めて、風に流されてきた。
桃色の綿菓子みたいな満開の時期も好きだけれど、やっぱり、こうして桜吹雪に包まれるのは格別だ。
自分だけが、世界から切り離される錯覚に陥る。
こんなに花弁が舞っているのに、菓子やシャンプーなどに よくある桜の香りは全くしない。
だから、私は持ってきたアイスティーに口をつけた。
ふわりと香る桜と、甘いシロップの味。ほんの少しだけ飲み馴れている茶葉の味がする。
強い風がまた花弁を散らした。
ピンクのカーテンの向こうに、君が見えた気がして、息を飲む。
けれど、力なく花弁がはらはらと積もっていく先には、誰も居なかった。
ほんの少し残念で、軋む胸を誤魔化すようにストローをくわえ直した。
大丈夫。まだ春は始まったばかりだ。
花吹雪の先なんかではなくて、来年には隣で、一緒に並んで桜を楽しみたい。
そのための一歩を踏み出すために、私は甘い桜のアイスティーを飲み、のんびり味わった。
何をするのにも、充電は必要だって思うから。
今はゆっくり、ほんの少しだけ休憩する。
明日からまた、君へ全力疾走!
*END*
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