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メルヘンな彼女
「例えば、君が魔法使いだったらさ」
唐突に彼女は呟いた。彼女の持つアイスココアには生クリームが乗っている。だが、それはもう半分ほどしか残っていなかった。
甘いものが得意ではない僕からすれば、それは胸焼けしそうな量だったが、彼女はむしろ気分が良さそうだ。
「どんな魔法を使いたい? やっぱり男の子は透明人間になる、とかかな?」
「とりあえず、その偏見を止めてもらっていいかな」
これだけメルヘンな頭をしているというのに、彼女は割りと偏見の塊だった。
けれど、それは彼女の受けてきた偏見の裏返しでもあるのだろう。
「あのね、別に男が皆お風呂とか覗きたいとは……」
「お風呂覗きたいんだね」
「……え?」
「私は、透明人間って言っただけだから。その後に何をするかは知らなかった」
悪戯っぽく笑った彼女を見て、急に顔が熱くなった。反論の言葉は出てこない。誤魔化すようにメロンソーダを飲んで、気持ちを一度落ち着ける。
彼女のペースにはめられてはいけない。
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