第一話 脚本

10/16
前へ
/20ページ
次へ
◯同・応接ルーム(夕)   テーブルに置かれた名刺。   名刺には『東京都ホール渡航管理事務   局 主任 田崎健一』とある。   麻衣が名刺を見ている。   何やら伺うように田崎を見る麻衣。 麻衣「ホールの方、ですか」 田崎「ホールのことについてはどれくらい?」 麻衣「……ニュースで見る程度ですけど」 田崎「ホールが開通したのは15年前、初めてのチームが調査から帰還したのがその5年後、今から10年前のことです。当時はアメリカ軍の所属でしたが、帰還兵の言葉はご存知ですか?」 麻衣「……ただひとつの例外無く、すべての捜し物が見つかる場所、ですよね」   頷く田崎。 田崎「その言葉がきっかけで、これまでリスクばかりが強調されていた、ホール探索に各国が本格的に取り組みました」   イメージカット、アンドロイドや医療   研究を行う人々。 田崎「医療、科学、軍事研究、人類はホールから持ち帰ったものによって、数百年分の技術革新をわずか数年で成し遂げたと言われてます」 田崎「でも、ゲートにはひとつのルールがあります」 田崎「持ち帰るものと、同等の価値を持つ何かを置いて帰ること」 田崎「この絶対的な制約によって、これまで人類は希少金属、歴史的価値の高い過去の遺産や芸術品、非公式には生きた人間をも対価として、ホール探索を続けてきました」   テーブルのファイルを指差す麻衣。 麻衣「それが、妹とどんな?」   少し、戸惑いながらも話す田崎。 田崎「失礼ですけど、妹さんのご病気は?」 麻衣「……リスト外の難病です」 田崎「余命は?」   言葉を返さない麻衣。 田崎「……すみません」   覚悟したように話しだす麻衣。 麻衣「妹はきっと……どうでもないことで死にます」 田崎「?」 麻衣「今はまだ元気ですけど、これから出来ることがドンドン減っていきます。喉に痰を詰まらせたり、風邪をこじらせたり、どうでもないことで、死ぬんだって本人も分かってるんです」 田崎「妹さんを救えるとしたら?」 麻衣「?」 田崎「妹さんは……」 ◯同・病室(夕)   もうかなり日が傾いている。   ベッドに仰向けになって、タブレット   を操作している凪沙。   物憂げな表情を浮かべ、天井の写真を   見る。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加