スペア未満

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 パーカーの裾を引っ張られる感触で、わたしは我に返った。スーパーに入るたび、最低一回は母のことを思い出してしまう。もう、これは、トラウマだ。 「おかあさん、動かない」  視線を声のほうに向けると、今朝会った少女がそこにいた。 「あ、動いた。よかった」  にこりと笑いかけられ、仕方なくわたしも笑って見せた。子供ってずるい。毒気も無理も、打算も作為もない笑顔を振り撒けるんだから。  手に持っていた肉のパックをワゴンに戻す。ゆっくり吟味する時間が取れそうにない。 「お父さんはどうしたの?」  周りを見渡したが、父親の姿がない。 「今、レジにならんでるよ。おかあさんも早くかえろう」 「お母さんじゃないよ、わたしは」  手を引っ張られる。本気でこの少女は、わたしのことを母親だと思っているらしい。 「おとうさん! おかあさんいたよ!」  だから違うっての。ため息をついたわたしは、レジで会計を終えた男がこちらに向かって駆けてくるのを見つめていた。
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