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なんでこうなったのか。わたしは父子とともにスーパーから出て、家路を歩くはめになった。偶然にも、わたしとこの父子は同じ番地に住んでいた。バス停の最寄駅と、立ち寄るスーパーが同じことから、近所に住んでいることは推測していたけど、まさかここまで近くに住んでいるとは思わなかった。バス停で今まで会わなかったのは、わたしが雨天のときぐらいしかバスを使わないからだ。いつもは自転車通勤をしている。
父親は娘と一緒に一駅先の幼稚園までバスに乗り、園まで送り届けたらまたバスを使って終点駅にある会社に行くらしい。
「この時間に帰れるってことは、時短勤務ですか」
「ええ。預かってくれる身内もいなくて。幸い、子育てに理解のある会社なので助かってます」
男は照れたように笑って、帽子越しに少女の頭を撫でた。彼女はまだ、わたしの手首をしっかりと握っていて離そうとしない。このままだと本当に、この子に部屋まで連れ込まれてしまいそうだ。それにしても、子供の歩幅に自分のそれを合わせるのが、こんなに面倒で疲れることとは思いもしなかった。体が自分の自由にならない不便さに、少しだけ苛立ちも覚える。
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