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「こら、いい加減に、お姉さんから離れなさい」
少し厳しい声を作って、父親が娘を叱った。やっと真面目に怒ってくれたか。
「動いてるおかあさん、はじめて見たんだもん」
「さっきから動く、動かない云々言ってますけど、なんなんですか?」
ストレートにわたしモデルのダッチワイフを持ってるんですか、部屋に飾ってるんですか、とは聞けない。
見えない壁にぶつかったように、男は歩みを止めて黙り込んでしまう。この反応は、やっぱり。
――安心してください。購入者と街でばったり会うなんてこと、まずありませんから。
スカウトマンの言葉は、百パーセント確かというわけではなかったようだ。
そろそろ自分の住むアパートが視界に入ってくる。自宅を知られたら面倒だ。わたしは「じゃあここで」と言って、拘束された右手を強く振った。少女の手が剥がれた瞬間、自由になった手を素早くパーカーのポケットに突っ込んだ。
少女の顔が泣きそうに歪んだけど、知ったこっちゃない。泣いたら父親が宥めるだろう。
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