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「――ネグレクトってやつなんです、私の妻は。いつもソファに座ってスマホを弄っていたり、ごろごろしていたりで、本当に動かないんです。娘の面倒も見ない。あなたの雰囲気がちょっと妻に似ているので、娘が勘違いしちゃっているようです。すみません」
男から漸く出てきた言葉は、どう考えても嘘っぽいし矛盾している。ソファからは立つことがなくても、スマホを弄っているのだから、体を動かしていることにはなる。でも苦し紛れの嘘を言いたくなる気持ちも分かる。今日はじめて会った女に、「あなたに似たダッチワイフが部屋にあって……」なんて言えないだろう。恥だ。
「そうですか。大変ですね」
わたしはそう言うしかなかった。他に言うべき言葉が見つからない。
男は居心地が悪そうに頭を掻いたあと、強引に娘を抱き上げ、逃げるようにわたしの前から走り去った。
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