スペア未満

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「君は仕事の飲み込みも早いし、受け答えもしっかりしているから、できれば長く働いてほしいけど……若いうちに正社員の職を探してほしい気もするよ」  わたしは別に、こんな所で正社員になんかなりたくない。口から出そうになった台詞を飲み込んだ。わたしはナミ姉とは違う。――でも、どう違うんだろう。ずっとアルバイトかパートで生活費を稼いで、ひとり暮らしを満喫して。 「辞めたくなったらすぐに言ってよ。新しい人を雇うのに時間がかかるから。こういう職種は」  応募があるときはあるんだけどねえ。呟きながら、店長は自分の席に戻っていく。店長にとって、ナミ姉もわたしも使い捨ての駒でしかない。そんなことは前から分かっていたはずなのに。  ナミ姉の鼻歌を聞くことはもうない。連絡先も教え合っていない。仕事は楽しいけど、同じことの繰り返しだ。そのうちまた飽きて辞めたくなるだろう。どうして皆、仕事を辞めずに定年まで勤め上げるのだろう。飽きるはずなのに。 「店長は、なんでこの仕事を続けてるんですか」  書類に目を通していた店長が顔をあげて、こちらに視線を向けてくる。 「そりゃあ、妻子がいるからね。子供の学費はかかるし、家のローンも残ってるし」  ありきたりな答えに幻滅する反面、迷いなく即答する店長に、羨ましさを感じていた。
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