スペア未満

19/21

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 少し部屋を片してきます、と男は言い置いて、わたしと少女を玄関のドアの外で待たせた。  数分後、ドアを開けた彼の額には汗が浮いていた。それを手で拭ってわたしたちを部屋に通した。玄関入ってすぐの洗面所の前で、男は立ち止まった。 「ウガイと手洗い、しておいで。ちゃんと石鹸を使うんだよ」  父親は娘の頭を撫でながら言い、視線をわたしに向けた。 「こっちです」  促されて向かった先は、キッチンと一体化した広めのリビングルームだった。小さい子供がいる割に、部屋は整然としている。目の前のソファには何も置かれていない。 「寝室に移しました」  男は苦笑して、向かって右側にあるドアを顎で指した。  寝室のドアは開け放たれていた。ドアのすぐ近くにベッドが置かれている。  そこに、いた。  ベッドの端には、わたしモデルのリアルドールが座っている。一瞬でも、奥さんの死体が部屋にあるのでは、と疑った自分が情けない。  わたしは寝室に足を踏み入れた。人形に歩みより、彼女の首筋に鼻を近づけた。たしかに古い油のような臭いがした。     
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加