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少し部屋を片してきます、と男は言い置いて、わたしと少女を玄関のドアの外で待たせた。
数分後、ドアを開けた彼の額には汗が浮いていた。それを手で拭ってわたしたちを部屋に通した。玄関入ってすぐの洗面所の前で、男は立ち止まった。
「ウガイと手洗い、しておいで。ちゃんと石鹸を使うんだよ」
父親は娘の頭を撫でながら言い、視線をわたしに向けた。
「こっちです」
促されて向かった先は、キッチンと一体化した広めのリビングルームだった。小さい子供がいる割に、部屋は整然としている。目の前のソファには何も置かれていない。
「寝室に移しました」
男は苦笑して、向かって右側にあるドアを顎で指した。
寝室のドアは開け放たれていた。ドアのすぐ近くにベッドが置かれている。
そこに、いた。
ベッドの端には、わたしモデルのリアルドールが座っている。一瞬でも、奥さんの死体が部屋にあるのでは、と疑った自分が情けない。
わたしは寝室に足を踏み入れた。人形に歩みより、彼女の首筋に鼻を近づけた。たしかに古い油のような臭いがした。
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