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人形はちゃんと服を着ていた。衣装ではなかった。上はシミがついたストライプ柄のTシャツ。色むらのない肌色の肩にはブラジャーのストラップが食い込んでいる。下はだぼだぼのジーンズだった。やけに所帯じみた格好だ。
男はキッチンで料理をしながら、人形を購入した経緯を話し始めた。
「妻が死んだのは、ちょうど一年前です。生前はよくそのソファに座ってましたよ。家事育児はちゃんとしてくれましたが。病気が発覚したあとはあっという間だった。すぐに亡くなりました」
洗面所のほうから、少女ががらがらとウガイをしている音が聞こえて来る。わたしは寝室から出てドアを閉めた。
「二か月前かな。妻がいないことにも慣れてきて、なんというか、性欲が戻ってきたというか。でもお付き合いできそうな女性が周りにいなかったし……小さい子がいるからなかなか」
「それで、あの人形を?」
「ええ。でも最初は人形を買うことに抵抗がありました。人形相手に本当に興奮するか分からなかったし。いろいろリアルドールのブランドをネットで探していたら、妻にそっくりな顔のドールがあって」
突然変態の言い訳から、寡男の美談へと印象が変わる。
「そうなんですか。奥さんにそっくりなんですね」
ということは、わたしと彼の奥さんも、そっくりということになる。
そろそろ帰ります、とわたしが言ったとたん、背中にどんと少女が体当たりをしてくる。
「まだ帰んないで。ごはんいっしょに……」
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