スペア未満

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 一年前のちょうど今頃だ。上野恩賜公園でバイト仲間と花見をしたあと、ひとりで駅周辺を散策していたら、見知らぬ男に声を掛けられた。当時のわたしはお金に困っていたから、モデルのスカウトだと名乗る男を無下にできなかった。彼は言ったのだ。「数時間お時間を頂ければ、謝礼として二十万、お支払いしますよ」と。 「そんな美味しい話、信じられないんですけど」  その頃わたしは、時給八百円のコンビニ店員だった。 「ただのモデルじゃないんでね。人形のモデルなんですが。どうですか」  揉み手をするスカウトマンの顎には無精ひげが浮かんでいた。一応スーツは着ていたけど、まっとうな企業の社員という感じではなかった。怪しい雰囲気も醸し出していた。だけどお金は欲しくて、もう少し話を聞くことにした。 「リアルドールって聞いたことありませんか?」  わたしが首を横に振ると、男はそうだろうねぇと納得したように頷いた。 「ダッチワイフ、なら分かる? 男が性欲処理のために使う人形なんだけど。最近のは凄く進化していて、遠目に見ると人間と間違えるほどの精度なんだよ」     
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