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男の説得は、わたしの心を動かした。リアルドールを買い求める人たちの目的は、時を経て変化するのだそうだ。百万近くする精巧な造りのドールは、性欲のはけ口から着せ替え人形という芸術品にレベルアップする。購入者に性対象としては飽きられても、無残に捨てられることはない。そもそも、簡単にゴミ置き場に捨てられる代物ではないらしい。人間より優遇されている、と言えなくもない。要は、ダッチワイフではなく、着せ替え人形のモデルをやると考えれば、抵抗感はゼロに近くなる。
わたしはモデルの話を受けた。販売方法は、インターネットによる予約注文で、予約が殺到したら追加販売もあり得る。爆発的ヒットになったら大入りを貰えるとの話で、わたしは少しだけ期待をしていたが、残念ながらまだ、嬉しい知らせは来ていない。一度目の予約注文は締め切られ、わたしモデルの人形は、すでに全国及び海外に発送されている。
ネットで一度、自分の人形がどんなものかを確認した。スカウトの男が言っていた通り、人形はわたしの生き写しというほどではなかった。だけど雰囲気は似ていた。肩まで届く茶の入ったストレートの黒髪。生意気そうに見える少し持ち上がった口角。クッキリ二重と、近視っぽい黒目勝ちな瞳。丸を少しだけ縦に引き伸ばしたような顔型。一つ一つのパーツは勿論、パーツの配置も、わたしと同じだった。それでも瓜二つにならないのは、顔の着色のせいだ。人形の顔は色素沈着やくすみがない真っ新な肌色。頬紅は初々しいピンク、唇も肌荒れとは無縁な瑞々しいピンク。口を大きく開けたアップ画像も見た。完璧な歯並びと、真っ白いシリコン製の歯。清潔感が漂っていたが、人工物臭さは拭えない。
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