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 気になったから、哀しい事がありますか、と聞いた。女はありますと答えた。 何が哀しいですかと聞くと、空が、それから菜の原が、そして自分と、貴女と答えた。  どうして哀しいのかは聞かなかった。ただ、女はずっと辛いのだと思った。女の云う、片雲も無い深い天空の瑠璃色は、愁いの色に見えた。緑の原と菜は女の微笑を連想させた。そして自分は__感化されていた。これが女の云う哀なのかは分からないが、自分の心もいつの間にか哀が芽生えていた。  哀しいのは私だけでいいのにと、女が上の花越しに碧空を見て笑って云った。その姿を見ているだけで自分も辛くなった。女はもっと辛かろうと思った。それから女はまたこちらを、見て、沈んだ声でごめんなさいと云った。もう少しも笑っていなかった。自分は驚いて、なんとすればいいか判然らないで、ただ狼狽して女を前に座していた。そうしたら、女は肩を屈めて、自分に抱きついてきた。自分の胸に顔を埋めてきた。抱きついてくる一瞬の内に見えた女の眼からは露の様な涙が零れていた。女は咽び泣きながらひたすらに、ごめんなさい、ごめんなさいと云っている。自分は顔下の桜の小さい頭両腕で抱いて、撫でてやった。少しは楽になってくれるかと思った。
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