第1章

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 俺は左目の視力を失った。平日の朝、リビングで焼酎を飲みながらテレビを観ていた。すると、インターホンが鳴り、ダルい体で立ち上がり、ドアの覗き穴から外を見ようとした時にドア越しからアイスピックみたいな針で目を刺された。それが記憶の最後だ。  廃墟のビルディングだろう。恐らく俺はその中に監禁されてる。蛍光灯で映し出されるコンクリートの無機質な壁、ゴミだらけの床が見える。窓はすりガラスに鉄格子。小さな雑居ビルと推考する。外は暗い。縛られてはいない。“犯人”は何を考えてる? ニートを誘拐して何を企んでる? 顔の左半分が痛い。鈍痛だが激痛でもある。刺された事を思い出せば思い出すほど痛みが増す。  脱出せねば! ニートだから生きてるのは辛いが、殺されるのは真っ平御免だ。大声を出すか? しかし、犯人の意図が解らない以上、下手なことは出来ない。 「くそっ!」 「おい! 誰か居るのか!?」  10メートル程先に人影が見えた。 「しっ。デカイ声を出すな……ゴホッ! ゴホッ!」俺は土臭い砂ぼこりを吸ってしまった。  人影が近付いて来た。グレーのスーツを着た男だ。 「お前は犯人じゃなさそうだな。名前は?」 「俺はキョウジだ。あんた……どっかで見た事あるような?」  俺は立ち上がり、片目で男の顔を見る。俺と同じ年齢は30歳くらい。 「平川だ。私が政治家だからかな。先の総選挙で初当選した」 「そうか、テレビで見た事あるな。あんたも怪我を?」 「背中に火傷みたいな水ぶくれができてて痛いんだ」  平川は自分の背中をさする。 「スタンガンじゃないか? 拉致……犯人に殺意はないのかな」 「キョウジ、と言ったな。その目はどうした? 流れた血が凝固してるぞ」 「玄関の覗き穴を見た時に針のような物で刺された」 「私達はやはり拉致されたのか」 「そのようだ、逃げて警察に……平川、携帯電話は持ってないか?」  俺と平川は服のポケットを探る。「ないな」俺は座っていた辺りのゴミを退かし、目ぼしい物がないか調べる。ダメだ……何もない。 「とりあえず、外へ出よう。ここは何階だか判るか?」 「判らない」  俺と平川は一番近くのドアの前に立つ。 「俺が開ける」  引き戸だ。ギギギギ――。俺はドアを何とかして開ける。かなりギスい。接着剤でも付いてるのか?  隣の部屋には階段があった。良かった、下に行ける。
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