鳴りいえの同居人

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それらが畳の上で集合するかのように集まった。それは黒い姿をした謎の小人軍団――。 やなりだ。 やなりたちは、なにやらそわそわした感じでオレを見てくるようだった。 「はい」 オレは余分に買っておいたメロンパンを適当に皿に分けてやる。 すると待ってましたとばかりに、やなりたちが一斉にメロンパンに群がった。 器用に均等にちぎってはみんなで分けている。 「ふふ」 なんとも微笑ましい光景に思わず口元がゆるむ。 このようなことは、べつに今日が初めてではない。オレがこうして創じいちゃんの家に遊びに来ると、決まってこいつらが現れるのだ。 やなりというのは、「家鳴り」という妖怪らしい。 なぜかこの家が気に入っているようで、いつからかここに住み憑いているらしかった。 特に害は無く、たまに家の中で音を鳴らしてはその存在を知らせるというイタズラをするようだ。 見た目はというと、小人が黒い衣装をまとっているような、舞台の裏方で暗躍する黒子のような姿だ。 少なくとも、オレからはそう見える。 しばらくしてやなりたちはメロンパンを平らげ、満足したのか再び家の中へ溶けるように消えていった。 家の中に、静けさが戻る。 すると玄関からカラリと引き戸が開く音が聞こえた。 「ただいま」 じいちゃんが帰ってきて、オレは無意識に空になった皿を片付けた。 「お、おかえりなさい」 「急な留守番すみませんね、助かりました」 「いいよ」 じいちゃんにそう言われ、オレは首を横に振る。 そしてじいちゃんのお気に入りの店のパンを買ってきたことを言うと、じいちゃんはすぐにお茶の用意をするからと動いた。 「おや?」 するとじいちゃんがふと何かに気づいたようで、不思議そうな顔をする。 「これは…、パンくずですか?」 オレはどきっとした。 見れば居間の畳の上に、白くて細かいものが点々と落ちている。 もしかしなくても、やなりたちのメロンパンの食べかすであった。 そう思ったけど、創じいちゃんは特に気にした様子もなく、すぐに切り替えるように言った。 「さあ、お茶にしましょう。私もパンが食べたくなりました」 ふふふ、と笑うじいちゃんに、オレはやなりのことを深く聞かれなくてホッとしていた。
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