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やなりたちは、普段はじいちゃんの家のどこかに潜んでいるようだった。
その存在をアピールするための音を聞いたことはあったけど、姿を見たことなんてなかった。
それが、少し前までのこと――。
どうやらやなりたちは、夜じいちゃんが寝た後を見計らっては現れ、お菓子をつまみ食いするなどして好き勝手に過ごすらしい。
その様子をオレは偶然目の当たりにしてしまったのだ。
そんな出来事が、今まで音しか聞いたことがなかったやなりとの関わりとなった。
それが、今に至ること。
やなりたちはじいちゃんがいる時は姿を見せないが、オレが一人でいる時に現れることが多い。
多いというのは必ずしもってわけじゃなくて、そこは気まぐれなのかあまり予想できない。
あいつらは神出鬼没で家のどこにでも現れるらしく、お風呂に入ろうとしたら湯船で泳いでたり、寝ようとしたら布団の上でプロレスごっこしてたりなどもあるから、とにかく油断ならない。
でも、やなりが一番現れる時は、オレがお菓子を持って一人で過ごしている時だと思う。
そんなある日。
じいちゃんの家に泊まりに来たオレは熱を出し、そのまま寝込んでしまった。
たぶん風邪だろう。
そのまま次の日も寝て過ごすことになり、朝になってもオレは布団にもぐったままだった。
(…頭がくらくらする)
ぼんやりする視界と熱くなった身体で全身がだるい。トイレにいくのも一苦労だ。
用を済ませちょっとだけ水を飲むと、オレはすぐに布団に倒れこんだ。
(今日は一日寝てよう…)
そう決めると、ゆっくりまぶたを閉じる。
それからどれくらい経っただろうか…。
ざわざわと、遠くから話しかけられているような落ちつかないものを感じて、目が覚めた。
うっすらと開けた目には差し込んでいた光が当たり眩しい。
日の光はやわらかくなっていて少し傾いているようだった。
「……」
だいぶ楽になったけど、まだゆっくり寝ていたいなぁ…。
そう思った時だ。また、あの気配を感じた。
ざわざわ、
ザゎ…
ざわ、ザワ…
ああ、この大勢が一斉にささやいているような感じ…。やなりがこの部屋に現れようとしているのがわかる。
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