ザリガニ男

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テーブルの中央には60センチ規格の水槽があり、いつもならその上に隙間なくアクリル製の板が乗せてあるが、今そのアクリル板は角が四角の縁からはみ出していて数センチ程の隙間が出来ている。まずい。 この水槽の住人は脱走の名人であり腕力もそこそこある。なので水中から外へ伸びるろ過機等のチューブやコードを器用に使って簡単に逃げ出してしまうのだ。 「探してからどれくらい経ちます?」 「今何時?」 僕は機材を動かしながら壁にかけられている腕時計を見た。 「7時40分です。」 「じゃあ20分は経つな。あっそこはもう見た。」 店長はテーブルの下で片手に携帯を持ち、四方の家具の下に向けて光を当てながら片頬を地面にベッタリと着けている。僕の方には一度も振り向かなかったが、どうやら背中にも目があるらしい。 「では更衣室を見てきます。」 僕は逃げだしたそいつを万が一踏まないようにと足元に気をつけながら、すぐ隣にある更衣室へと向かった。
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