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くたびれたサラリーマンが荷物を抱え込んで座席で眠り込み、大きなスポーツバックを抱えた学生の集団がわいわいとたむろし、流行のファッションに身を包んだ若者のヘッドフォンからハードロックな音楽が漏れ聞こえる。
出入り口付近には制服の大人びた少女と、詰め襟がまだ似合わぬくらい小柄で幼い顔立ちの少年が仲よく話をしていた。
それは日常の光景であり、誰も特別とは思わない電車の中。最初に始まったのはシューという何かが漏れるような異音だった。
買い物帰りの主婦がその音に眉をしかめて見上げると、座席の上の網棚にある紙袋からその音は漏れていた。
しばらくするとその紙袋がパンッという破裂音がして煙が漏れ始める。その時点でその車両にいた誰もがその異様な光景に気づいた。それと同時に車内にパニックが巻き起こる。
ちょうどゆっくりと次の駅のホームへと到着するところで、誰かが押した非常ベルが鳴り響く。非常ベルを受けて駅に着く前に電車が止まった。
「おい! 早く開けろ! ここから出してくれ!」
「誰だよ、ベルなんか鳴らしやがって。出られねえじゃないか」
この異物の正体が何かはわからない。だが身の危険を感じた乗客達はパニック状態になり、ドアに向かって八つ当たりのように蹴り始める者までいた。
『ただいまお客様より非常ベルによる異常のお知らせががありました関係で、電車を止めて安全確認を行っております。今しばらくお待ち下さい』
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