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責める口調が嬉しい。
生きている。
アルトは生きているのだ。
ただそれだけが、こんなにも嬉しい。
いくら頭でごちゃごちゃ考えたって仕方がなかった。答えはこんなにも簡単だった。
「あんたが、生きてて、嬉しい」
「マネギリュ、私は、生きて、いるのか」
「ああ、すまん、俺が助けた。すまん、いくらでも謝る。あんたの気がすむまで一生償う。けど、間違ってるとは思わねえ」
「何を、謝るんだ」
「あんたの生き方を、俺が決めてしまったことだ」
竜守になるために生きてきて、竜守の使命として竜のままで死に玉を次へと継がせる。ここでアルトの人生は完結したはずだった。それを己の都合で生かした。責められていい。もう覚悟は決めた。抱きしめていた体を解放してかぶさっていた体勢から置きあがると、しっかりとその目を見つめた。
アルトの目は、静かだった。まだ状況が分かっていないのだろう。
けれど次の瞬間、静かに開かれたアルトからこぼれた言葉はマネギリューの想像を越えて行く。
「お前と生きる選択が、出来るのだろうか」
まるで澄んだ音の楽器のような声が続ける。
「そんな夢のようなことがあるものか」
「っつ!! あるんだよ、ある、あるんだ、俺と生きてくれるのか?」
アルトはそっと目を閉じる。そのままこぼれたのは寝息で、マネギリューはがっくりと肩を落とした。
「寝言かよ」
けれど、きっと、これはアルトの深層だ。
――俺と生きることが夢なのかよ?
これほど力強い言葉があるだろうか。唇を噛んでいないと嗚咽がこぼれそうで慌ててアルトから目を逸らしながら、その頬を何度も撫でた。
たとえこの先にどんな困難が、どんな闇が待っていたとしても、この熱が、生きている証が、これから二人で生きて行く未来の確かな光になる。それは揺るぎない確信だった。
終
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