アルト

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 先ほど背を向けたアルトの側まで戻って、マネギリューは息を飲んだ。そこには見たことのある薄青い鱗に包まれた美しい竜は存在せず、漆黒の闇のような鱗に包まれた黒竜がいたからだ。 「これ、が」 「この色は定着の拒否――っ、アルトっ、駄目だ、だから迷いを抱くなと言ったのに!」  これは竜だ。けれど、アルトだ。綺麗で可愛くて乱暴で、そんなアルトだ。アルトが苦しげに唸る。これは生命の弱る声だ。 「駄目だ、死ぬな!」 「マネギリュー、覚悟はいいか」 「――今気づいたんだけどよ、お前は大丈夫なのか? アルトを助ける為に玉を取りだしたってバレたら村から責任を取らされたり」 「そんなの今更。それに僕は竜になる、そうなってしまえば誰にも僕を責めることなんてできない」  それに、とワタリは茶目っ気たっぷりに片目を閉じる。 「君に脅されたと言うから大丈夫だ」 「は、だったら遠慮はいらねえな」 「ああ。僕がアルトを切り裂くから、君はそこから玉を取り出してほしい。まだ定着しきってないから紋章がでてる、前足だ。そこを斬る」 「分かった!」  アルトは苦しげに咆哮しながら身をよじっている。巨大な体をくねらせるだけでも地鳴りがする。そこに飛び込んで切り裂き玉を取り出すなど無謀としか言えないが、やるしかないのだ。 「いくよ」  緊張感のないワタリの合図と同時に駆けだしアルトの側に寄った。 「アルトごめん! 斬るよ!」
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