アルト

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 言われたとおりに西に向かうとすぐに川に出た。未だ意識のないアルトの傷口を洗ってやり、衣服をつけてない体を己の上着で覆ってから担ぎあげる。川沿いとはいっても道が整備されている訳ではないし、意識のない男を担ぎあげて歩くのは骨が折れた。急いでいるつもりでもいつまでたっても森から出られる気がしない。  その時だった。  森の奥から力強い咆哮が響く。  アルト竜だったときの咆哮とは違い、苦しみの欠片もみえない畏怖を感じる美しい咆哮だった。 「あいつ、成功だったんだな」  ワタリの人懐こい笑顔が浮かんで、マネギリューは咄嗟に咆哮に向けて手を合わせた。  それにしても体が痛い。表面的な痛みではなく、寒いような苦しいような、震えが走る。これはワタリの竜気なのだろう。アルトの時とは比べようもなく強大な気に力が奪われる。竜とはこれほどに、存在感だけでひとを畏れさせるものなのだったのかと気が遠くなった。比べればアルトの前竜が寿命が近く弱っていたと言われた意味が分かった。こうも違うのだから。 「サニーは、どうなったかな」  この気に押されて異国の侵入者達も竜を諦めたかもしれない。そう確信すると同時に一瞬を気を失って慌てて森の木にもたれかかる。アルトを連れて逃げなければならないときに弱っている場合ではないのに。  叱咤しながら体をひきずりつつ、ようよう森を抜けたときには随分と日が陰っていた。都合がいい。少しでも人目につかないで移動ができる。まずは家に戻ってアルトの治療と出立の準備が必要だろう。そう思うのに、もう体が動かない。情けない、もっと鍛えておけばよかったと弱音を吐きそうになったときだった。  目の前の茂みが揺れ人が飛び出してくる。何の用意もできず息を飲むマネギリューの前に姿を見せたのは、 「マネギリュー! お前、どうした!?」 「サニー!?」  世界が暗転した。
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