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神妙なサニーサイドの顔を見つめながら、マネギリューは大きく頷くと、知っている全てを話した。サニーサイドは黙って聞いていたが、竜守の使命について話しているときにはその顔にも微かな動揺が見えた。
「竜守が竜に? では今の竜は」
「ワタリってやつだ。お前も少しは知ってるだろ」
「村の者だろう? どうりで姿が見えなくなったわけだ。――正直、頭が追いつかないな」
「ああ、俺も」
二人してベッドのアルトを見つめる。事情がどうであれ、今一番深く考えねばならぬのは「これから」のことだった。サニーサイドがアルトを診せたという医者は口が固いから大丈夫だということだったが、それでも何がどう動くかも分からない今、ここにいつまでも留まるという訳にもいかないだろう。なによりサニーサイドにも迷惑がかかってしまう。
「アルトの意識が戻ったら出て行くから。それまでは、すまん」
「それはいい。ここは部下の誰も知らん場所だし、傷が癒えるまでいればいい。それよりもマネギリュー、お前、ちゃんと考えているのか?」
「何をだ」
サニーサイドの目がアルトを見つめてからゆっくりとマネギリューの顔へと視線をうつし、視線が絡んだ。そこには微かな怒りが見える。友人を怒らせてしまったかと心を痛めながら、マネギリューは覚悟を決めて口を開いた。
「勝手な判断をしたこと、怒ってんのか?」
「……それは俺ではなく竜守様――アルト様に生じる感情だろう。お前は想像したか? 竜守でなくなったアルト様がこの先どういう心持で生きて行くのか」
「そりゃ考えたわ、けど、死んだらどうしようもないだろ」
「そうだ、だが、使命とは人生の核だ。それを失った。己の人生の終わりをアルト様は描いていたはずだ。それも失った、己の意思とは関係のないところでな。それがどういうことなのか、俺には少しだけ、分かる。これは少し意味が違うたとえだが、お前が寝て起きたらこの先二度と細工が出来ず細工師として生きる道を閉ざされたことを考えろ? それも己の意思ではなく例えば俺の意思で」
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