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マネギリューは言葉を失った。
考えたのは本当だ。アルトは怒るだろうと覚悟はしていた。それでも命の方が大事だと思ったのだ。生きてさえいればきっとなんとかなる、そういうものではないか。
けれど違うというのか?
人生の核をなくして、生だけが残されたときそこに生じるのは。
「絶望、か?」
「それすらも通り越すかもしれん。虚無だ」
虚無、という言葉を吐きだすサニーサイドの唇がすぐに苦しげに結ばれ、きっと親友も騎士でない己に想いを馳せているのだろうと思った。想像だけで顔色を失うほどに苦しいのかと、呆然とする。だとすれば、そのために生きてきた男にとって「使命」を失って生きるということはどういうことなのか。
――俺の想像は甘かったのか?
アルトが目を覚まさなければ分からないことではある。けれど初めてマネギリューは怖いと思った。どんな責めを受けてもいい、その覚悟はできていたけれど、あの美しい目が光を灯さぬ闇に落ちたとき、己には引きあげることができるのだろうかという恐怖が身を包んでいく。
「……とにかく、今はお前も休め。まずは気力と体力がなければどうにもならん」
布を敷かれた床に横にさせられても眠りになど落ちることはできず、ひたすらに天井を見つめていた。
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