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夢の中で夢を見ていると自覚することはあまりないが、マネギリューは今夢をみているのだと気付いた。目の前に祖父がいるからだ。
『じいちゃん』
祖父は笑っている。そうだ、細工を見てほしい、そう思うと都合よく手の中に王の馬車に献上した蝶の細工が出てくる。
『結構いい出来だと思うけど』
細工を祖父に渡すと祖父は厳しい目で細工をまじまじと見つめ、手にとって更にまじまじと見つめている。王に献上したときより緊張してしまうのはどういうことだろう。断罪を待つ気分のマネギリューに祖父はもう片方の手を差し出した。他のものも見せろということだろうか。どれにしようかと思っただけで手の中にまた細工が現れる。それはアルトの為に作った急ごしらえの髪飾りだった。
『これ』
祖父はそれを手に取り、柔らかく笑った。蝶のようにまじまじと見つめることなく、一瞥だけで笑ったのだ。こちらの方が出来がいいというのか、こんな急ごしらえの、細工刀すらなく木の彫刻用小刀で彫った稚拙な物なのに、だ。
『出来がいいのは蝶だ。じゃがお前らしいのはサクラだ』
祖父はそう言うと煙のように姿を消した。夢とは不可解で理不尽だ。
――俺らしい、か。
サクラはアルトにあげようと思って作ったものだった。アルトの笑った顔が見たかった。
――ああ、うん、そうだよな、大事なことって……。
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