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途端、何かの物音に気づいて覚醒する。
部屋の中は暗く、片隅でランプが一つ灯っているだけだったが、ベッドのアルトがむせかえっているが分かった。飛び起きてその背をさすってやる。
「大丈夫か?」
「う、ああ」
何か飲み物を、と部屋を見渡したがサニーサイドの姿はない。自宅へ帰ったのだろう。
「水持ってくるから、待ってろ」
背中をさするのを止めて水を汲みに離れようとしたマネギリューの手をアルトの手が弱々しく掴んでくる。
「どうした? 苦しいか?」
「い、てくれ」
「何」
「ここに」
ここにいてくれ。
そんなことをこんな崩れそうな声で言われては動くことなどできない。抱きしめてやりたいのを堪えてもう一度背中をさするマネギリューに、アルトは安堵したように目を閉じた。咳が止まり、そのうち寝息が聞こえてくる。息をついてそっとベッドに寝かせてやりながらマネギリューは確信する。
――やっぱり俺はあんたが大事なんだ。
だからその自己満足だけで命が大事だと言いきってみせる。アルトの命を救ったのはアルトの為でなく己の為なのだ。だから何を言われてもアルトに憎まれても絶対にこの命を守って見せる。
もう決めたのだ。
ようやく心が軽くなった。
眠るアルトの前髪を撫でて自分も寝直そうと思った時だった。
「ま、ね、マネギリュー?」
不意にアルトが目を開いた。先ほどのように弱々しい子のような声ではなく、聞き覚えのあるしっかりとした凛とした綺麗な声だった。覚醒したのだろう。
「何だ」
なるだけ優しくそう答えるとアルトは数度瞬いて、目を細める。
「ここは?」
「――説明しなきゃいけねえこと山ほどあるんだけど。けど、その前に一ついいか?」
「何だ?」
また数度瞬いたアルトの頬を撫で、その目が美しいことを改めて感じながらマネギリューはアルトの上に覆いかぶさってその体を抱きしめる。細くない、鍛えられた、竜守として生きる為の体だ。その熱が嬉しい。
「マネギリュー、なに、急に、苦しい」
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