過去1

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「一秋んち、今日行ってもいい?」  トイレの個室から出た途端、待ってましたとばかりに加納が正面から突進してきた。そのままがばっと抱き竦められ、一秋は慌てて背に回された腕を剥がそうともがく。 「ここは会社だぞ!」  囁き声で怒るが、サカっている男はびくともしない。体を持ち上げられ、元いた個室に戻される。加納は後ろ手で鍵をかけ、簡単に密室を作ってしまった。 「キスだけだよ」  当たり前だ。それ以上されて堪るか。口に出そうとした言葉は加納の唇で遮られ、そのまま舌の侵入を許してしまう。昼食後の、歯磨きを終えたばかりのお互いの歯は、同じミントの香りがした。次第にお互いの舌の動きが激しくなり、気を良くした加納が、一秋の股間をスラックスの上から撫で始める。 「ちょっと、なに」  器用に動く加納の舌から逃れ、強引な男を窘めようと口を開いたが、言葉が滑らかに出てこない。一秋の舌と唇は感覚がなくなるほど痺れていた。唾液が顎を伝い、首筋まで落ちてくる。 「エロい顔」     
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