カカオ80パーセントチョコレート

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 優美の言葉に、私ももう一度中庭に目を向けると、ばっちり、ベンチに座ってこちらを見つめる茶髪の男と目があった。奴の上にはもちろんまだ女が乗っかっていて、言うなれば女は男の首元に抱きついてさっきよりも随分と密着している。  女がいなければ、彼氏と彼女が中庭と3階の教室で見つめ合っている、ただ一カップルでなんとなくありそうな光景だが、女がそこにいることで私たちの関係はなんなんだ?と周りに聞かれたらなんと言えばいいのか。  ぼうっと男を見ていると、男は私を見て顔の口角を上げた。笑っている。片手は女の髪を撫でながら。  「っ」  向こうはこちらが気づかないと思って笑みをこぼしたのか、それともわざとかはわからないが、この瞬間、私は完全に後者をとった。  「えっ亜理!?ちょっ、カラオケは?!」  「ごめ、」  ごめんね、今はその一言さえちゃんと言えないよ。怒ったかな、明日、優美の好きな三角チョコパイ奢ったら許してくれるかな。安い!って言われちゃうかな。でもね、ごめんね。いまは。なんで、なんで、なんで私は、あんな人が好きなんだろう。その笑みには、どんな意味があるの。机の上に出ていたペンケースやノートはそのままに、乱暴にカバンだけ引っつかんで優美の顔も見ずに、私は教室を飛び出した。
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