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走っているのに、3階から1階までの階段を下る数分が、いつもより長く感じた。目に溜まった水分のせいで、前もよく見えない。階段を降りきったところで、私は走ることを諦めて歩幅を緩めた。
いつもそう。こんな思いをするのはいつも私の方で。でも結局、好きの気持ちに負けてしまう。はあ、と小さくため息をついて下駄箱を開ける。
「亜理」
「・・・翔ちゃん」
中庭にいたはずの彼だった。ゆっくりとこちらに近づいてきた翔ちゃんは、私の目の前で止まり、さっきの女と同じように私の髪を撫でた。
「泣いてた?」
「泣いてない」
顔を覗き込もうとする翔ちゃんに、見せてたまるかと限界まで下を向く。震える声のせいでとっくにバレているんだろうけど。
私の頭を撫でたままの翔ちゃんは、そのまま自然に手を滑らせてぽすっと私の顔を自分の胸に埋め、私はそのまま軽く抱きしめられる形になった。
「さっきの怒った?」
「・・・・・」
怒った?ってなに。怒るに決まってるじゃん。馬鹿なの。ていうかわざとでしょ。ほんと悪趣味。自分が同じことされたらどうなの。全部口に出して言ってやろうと思ったけど、いま声を出したら我慢しているものが溢れてしまいそうで、ぎゅっと口を噤むんだ。何も言わない私に、翔ちゃんは軽く抱きしめていた腕を少し強め、その反動で私の体も翔ちゃんの胸により埋もれた。
「亜理ちゃん好きだよ」
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