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なんで今、そんな言葉を言うの。私が今一番欲しくない言葉を、なんで言うの。嫌い、翔ちゃんなんて嫌い。うそつき。嫌い。嫌い。大嫌い。苦しい。
力の出ない腕で翔ちゃんの胸をゆっくりと押して翔ちゃんを見上げると、翔ちゃんも少し顔をあげて私と目を合わせて小さく微笑んだ。
「やっぱり泣いてた」
「・・・翔ちゃん」
「ん?」
私の溢れた涙を翔ちゃんは自分の指で拭うと、目を細めてゆっくり顔を近づけてくる。ああ、私やっぱり翔ちゃんのこと、大好きだな。
「別れてほしい」
唇がくっつくまで数センチ。完全に閉じかけた翔ちゃんの目が、パチリといつもの大きな猫目になって固まった。
「え?」
言葉には出さないが意味がわからない、といった顔を翔ちゃんがするのも無理もない。
これまで何度もこんな状況にはなってきたものの、私から別れを切り出したことは一度もない。いくら翔ちゃんが他の女と一緒にいても、「彼女」の私との時間を大切にしてくれていたのは本当のこと。抱きしめて、触れて、キスをして。私と翔ちゃんだけの時間は、本当に幸せだったから。
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