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「……あなたは自覚がないの?」
歌い終えた彼女は、僕の顔に訝しげな視線を投げる。
「自覚?」
「自分が幽霊ってこと」
告げられた言葉が一瞬理解できず、僕は虚空を仰いだ。今さらながら傘も差さずにいること、雨粒が体を通り抜けていることに気づいた。
「笑えない冗談だね」
「冗談じゃないもの。ちゃんと成仏してね」
彼女は冷たく言い放ち、立ちあがった。雨空を震わすチャイムが鳴り響いている。
とり残された僕は、去ってゆく彼女の背中を目で追った。腰から下が消えた体は、もはや思いどおりに動かなかった。
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